チタンの指輪はサイズ直しができないのがデメリットという言葉がネット上に散見されるようになりましたが、実際にチタン専門店がどのように克服したかをご紹介したいと思います。
まず、微調整が可能な範囲は、叩いて伸ばせる1号程度ですが、スタンダードな平打ちリング、甲丸リングなどシンプルなものは2号大きくするか、それ以上伸ばせる場合もあります。
凹凸があったり装飾が細かい場合は叩いただけでなく装飾をやり直すことでサイズは大きくできますが、叩けばダメージが残りますので、修復します。サイズを小さくすることはできません。
貴金属とくにプラチナのエンゲージリングを着けている花嫁さまは、直径3mmから4mmの大きさのダイヤが特に一般的で、ゆるく着けているケースがあります。
プラチナのブライダルショップではサイズ直しできますから大丈夫ですよと言ってジャストサイズではないエンゲージリングを多々販売しているという印象があります。
あとでサイズ直しができるという安心文句です。
チタンの作り手は、そういうジャストサイズでないものを作ることはありえません。あとからもずっとサイズ直しが発生しない快適サイズで制作するというのが必須条件です。サイズを直す必要のないリングを作る=当たり前のこと。ですからしつこいくらいに測ります。
具体的には長時間着けたらどうなるか、指輪の幅も考慮します。幅が広いほど密着面積が多くなりますので着け心地は汗や指の血管の拡張によりむくみと感じられ圧迫するからです。そういった指の場合も研究しています。
また、関節が太い指の場合、単に関節を測っただけでは根元でゆるい指輪になりますので、内側も甲丸にし、内角を落とし、関節の通過をらくにする形状に加工します。そうすることで、付け根でもジャスト、出っ張った関節も通るという魔法サイズのリングが完成します。
また、楽器を演奏するひとの指は、一般的に、他のかたと違って指の腹に筋肉がついています。
美容師さんも、ハサミを持つ手の内側に筋肉があります。ボルダリングをする方、趣味でサイクリングをする方もグリップを握る指の特定の部分に張りがあり、通常の方と違うのです。個人個人の指の筋肉や脂肪の付き方、関節の太さを考慮しながらチタンの指輪を日々作っています。
永年の積み重ねと研究により、ぴったりサイズで作る技術は格段に上がっていきます。チタンの指輪職人はサイズで始まりサイズで終わるくらいにサイズにシビアです。指とリングサイズとその着け心地に対して責任を持って作ります。
一般的にサイズ直しをすると思って買っておられる方が多いのは、それほど既製品がジャストではなく、個々にぴったりにならないことが前提だった貴金属の歴史のせいではないでしょうか。
プラチナや金の指輪がゆるくて合わない場合はよくサイズを詰めるという言葉を聞きますが、貴金属の指輪をカットして余分な地金を除去して切り口をまた接ぐという工程が取られます。拡げる場合も継ぎ足しです。
何度も切ったりくっつけたりということは結婚指輪には縁起の面ではご法度です。離れたりくっついたりは離婚指輪となります。
チタンはひとつの塊から継ぎ目なしの状態で完成しますので正真正銘のマリッジリングです。そこが他のファッションリングとの違いだとも思っています。
では、もしもサイズ測定した日のサイズと、実際に完成した日の指のサイズが変わっていて、ゆるかったとしたらチタンの指輪はどうするのでしょうか?
その対策には、もう一本補助のリングをご用意する方法があります。結婚指輪が隠れるくらいの極細のリングをストッパーのようにして重ねて着けて大切な結婚指輪を紛失しないように守る役割です。
一時的に指が低い気温のせいで収縮したりということが季節でおこることがあります。冬のあいだ、指が細い時期だけはストッパーのリングを重ね着けし、むくんだときは補助なしで結婚指輪単体でといった具合にご本人の体調に応じてゆるいかゆるくないかで着けはずしできることになります。
ゆるいからと言って輪を切ってしまうことは和も切れていまいます。ひとつながりの輪を切らない主義、これはチタンの結婚指輪のデメリット克服策による功名になり得たのではないかと思います。
プロドットコム 松本